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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和59年(く)2号 決定

少年 T・M子(昭四四・五・七生)

主文

原決定を取り消す。

本件を富山家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の趣意は附添人弁護士○○○○、法定代理人両名連名の及び少年名義の各抗告申立書に記載してあるとおりであるからここにこれらを引用するが、その要旨は、本件各傷害の非行についての少年の関与の態様は、むしろ偶発的、追随的であつて、他の共同非行少年に比し非行の程度が弱いのみならず、少年は本件後担任教師らの助言、注意を素直に受け容れ、学校生活をおくる態度を示し、家庭内においても実母との間には強い信頼関係があり、実父に対する拒否的態度も一過性のものに過ぎず、従つて社会内の保護、教育によつて少年の非行性を除去、矯正することが十分できるのに、少年を本件各非行により直ちに少年院に送致した原決定の処分は著しく不当であるからその取消を求める、というのである。

所論にかんがみ、記録を調査し、当審における事実取調の結果をも参酌して検討するに、少年の生育歴、素行、非行性及び本件非行の態様等については、大要、次のとおりの事実を認めることができる。すなわち、少年は、実父Tと実母Y子との間の長女として出生したが、現在○○株式会社保安管理課長として勤務、稼働している実父は子女(少年のほかに、前記Y子との間に現在工業高校一年に在学中の長男と中学一年に在学中の次女とを儲けた。)の教育を母のY子に委せすぎる嫌はあるものの、家庭内教育の面で特に顕著な欠点があるわけでもなく、本件非行後の現在も少年を手許において保護し、漸次その非行性を除いていきたいとの熱意を強くもつている。一方、少年は、小学校五学年時までは特段の問題行動に出ていないことは勿論、智、体、徳育の各面で優れた児童として成長してきたところ、六学年に進級するや、我侭な行動を示しはじめ、児童間でグループを作つてその中心となり、時に他児童を苛めたりなどするとともに、ツツパリといわれる先輩を畏怖と憧憬の混在する目で眺め、自分も成長の上は友人に怖れられる存在になりたいなどと考えるようになつたが、なお中学一年生の三学期に至るまでは取り立てて際立つた問題行動は示すことなくほぼ普通の学校生活を送つてきた。ところが、中学一年生三学期に入るや、少年は、同年生間でいわゆるツツパリ女子グループを形成して、学校に著しく遅刻するのを常とし、授業中教室から抜け出したり、頭髪や服装等に関する学則違反を繰り返えし、あるいはグループによる万引や同校生に対する集団的粗暴行為にも加わるようになり、グループ内で特に指導的立場にあつたわけではないが、頭髪や服装の学則違反の点が目を引き、教師らからも相当問題視されるようになり、遂に女子生徒に付和して本件各非行を犯すに至つた。本件各非行のうちA子に対する傷害の所為は、同女が学業成績優秀で態度が生意気だという理由だけでC子がA子を便所内に呼び出しツツパリグループを構成する他の中学二年生らと共にA子の身体に点火したタバコを押し付ける等の暴行を加えた際、少年もこれに同調してA子の肩、頬を殴打したものであり、また、B子に対する傷害の非行は、中学三年生の女子ツツパリグループが同年生のB子に対し相当陰湿な集団暴行行為を加えたうえ、場所を移動して中学校三階から山側屋上に通じる階段踊場に来た際、たまたま教室を抜け出し同所に屯していた二年生ツツパリグループの一員である少年が雷同的に右三年生グループの集団暴行行為に一部加わつたもので、その行動はいずれも追随的であつて、行為態様自体も他の共同実行少年に比し悪質であるとはいえない。

ところで本件により少年に対してなされた富山少年鑑別所の鑑別結果及び富山家庭裁判所調査官の調査結果によれば、少年は性格的に自己顕示性が強く、小学校五年生に至るまでに見られた模範的児童としての行動及び中学一年生後期から発現されてきた問題行動は、いずれも右強い自己顕示性の異つた態様の発露であつて、知能、能力には問題はないが、他罰的思考が強く、本件についてもその責任についての反省心が十分には認められず、両親や教師らの指導・保護に対する受けとめ方も表面的で、その非行性を完全に除去することは一朝一夕にはできないと判断されており、右の各見解はおおむね肯綮にあたつているものと思われ、少年の非行性の矯正、除去は容易でないと考えられる。

しかしながら、他面、たといそれが本質的には同質の少年の自己顕示的性格の発現と認められるにせよ、少年の非行的性格が外的に発現されるようになつてからまだ僅々一年程度の期間しか経過しておらず、しかもその問題行動はほとんど中学校内でのツツパリグループの一員として外貌を飾り、同年生女子を苛めるなどの行動としてしか現われていないのであつて、校外の不良徒輩と親交を結んで家庭に寄りつかず、無断外泊をして節度のない生活をし、更には禁止された薬物を使用する挙に出る等の進んだ非行や虞犯行為に及んだりすることはなく、前記鑑別結果も言うとおり、本少年の非行性は「学校や家庭の枠からはずれて外に非行を発展させる段階にまでは至つておらず」家庭や学校教師らとの人間的交流関係も断絶したとまではいえないので、社会内処遇によりその非行性の進展を抑止し、矯正していくことも十分可能であると考えられ、その点に着目して富山家庭裁判所調査官においても本件審判前までは試験観察意見を、富山少年鑑別所においては在宅保護・専門の意見をそれぞれ提出していた事情に加えて、少年は昭和四四年五月生のいまだ刑事責任能力年齢に達して間もない中学二年生である一方少年が在学していた中学校側においては、校長をはじめ担任教師が協力して二年生女子ツツパリグループの解体に努力するとともに、学校教育の課程内で少年を保護・指導していこうとする態勢を整えていること、両親においても、学校とも協力して、なお可能な限りの保護の手段を講じたいと熱望していることのほか、本件における他の共同非行少年に対する処分との権衡、更には、少年を収容している交野女子学院の実情、そのなかでの少年の生活態度と心境等を総合勘案してみると、少年を在宅の保護処分に付するとか、又は相当期間その動向を観察、見定めた後に終局処分を決定するなどの措置をとることなく直ちに少年を初等少年院に送致した原決定は、その処分が余りにも性急に過ぎ、著しく不当であるといわなければならない。本件抗告は理由がある。

よつて、少年法三三条二項、少年審判規則五〇条により原決定を取り消し、本件を原裁判所である富山家庭裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 杉浦龍二郎 裁判官 石川哲男 松尾昭一)

〔参照〕原審(富山家昭五八(少)一〇二七、一四二一号 昭和五八・一二・二六決定)

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

当庁調査官○○○○作成の少年調査票の「本件の非行」欄記載のとおりであるから、これを引用する。

(法令の適用)

各傷害の点につき、刑法二〇四条、六〇条。

(処遇)

一 少年は学内における不良グループの構成員として学内における対生徒暴力行為を反覆しているものであるが、その行為内容をみると、なんらの理由のないまま被害者らに対し執ようかつサデイステイツクな攻撃を加え、被害者らの身体的被害もさることながら、精神面にも深刻な傷痕を残しかねない所為に及んでいるものであり、しかも、少年はその加害者グループにあつても中心的なメンバーであつたものである。

二 少年の知能は普通域にあつて知的能力自体には格別の問題はないが、自己顕示傾向が顕著であることも相俟つて不良顕示的志向を強く示しているとともに周囲の大人あるいは社会に対する回避・無視的傾向が顕著であつて、保護者あるいは在学校の指導によつても自己の不良志向傾向に対する問題意識をもつに至らないうえ、現時点においてもなお本件各非行の重大性についての認識に欠け、依然として他罰的態度に終始しており、性格面での問題性には軽視し難いものがある。

三 加えて、少年がその在学校の教師や保護者らに対する不信感を強く抱き、入鑑後にあつては更に拒否的傾向を強めていることをも併せ考えると、少年を在宅のままで処遇し、もつて更生を期することは至難であるものと判断せざるを得ない。

そこで、少年の年齢その他諸般の事情を考慮して、少年に自己の問題性の自覚を促して更生の契機とすべく少年を初等少年院に送致することとし、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項により、主文のとおり決定する。

〔参考〕 少年調査票 昭和58年少第1027・1421号〈省略〉

別紙

(昭和五八年少第一〇二七号事件の犯罪事実)

被疑少年T・M子、同C子は、少年D子、同E子と共謀のうえ、昭和五八年六月九日午後四時ころ、魚津市○○××番地の××、魚津市立○○中学校三階山側女子便所内において、被害者A子に対し、「あんたなんの気になつとる、なまいきなやつ」と因縁をつけ、こもごも煙草火を同人の左大腿部、左大頬部に押しつける等し、もつて同人に約五日間の加療を要する左大腿部、左頬部火傷の傷害を負わせたものである。

(昭和五八年少第一四二一号事件の犯罪事実)

被疑少年O子、同N子、同V子、同W子、同X子、同I子、同Z子、同U子、同T・M子は共謀のうえ、同年一〇月一二日午後一時一五分ころから同日午後一時五〇分ころまでの間、同校三年六組教室前廊下、同校二階山側女子便所、同校三階から山側屋上へ通じる階段の踊り場において、被害者B子に対し、「先生に言うぞ」と言われたことに立腹し、手、足で顔面、頭部、腹部、足等を殴る蹴る等する暴行を加えもつて同人に対し約一週間の加療を要する全身打撲、頭部打撲の傷害を負わせたものである。

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